こんにちは、シンです。
Apple Watch をSeries6から10に買い替えて増えた機能が「睡眠時無呼吸のチェック」です。腕時計でそんなことが分かるのか、すごい時代だなと感心したのですが果たして正確性はどうなのでしょうか?
睡眠中の呼吸の乱れをモニタリング
Apple Watch Series9 以降またはApple Watch Ultra 2 には睡眠中の呼吸の乱れを検知する機能が備わっています。「Apple Watch で睡眠時間を記録」を有効にして「睡眠」を設定、これで睡眠時の呼吸の乱れをモニタリング (高い or 高くない) してくれます。
30日のうち少なくとも10日間、Apple Watch を装着して就寝することで睡眠時無呼吸の可能性があるか判断してくれます。
Apple の説明では1499人を対象にした検証研究で、このアルゴリズムで検出された89%の人に中等~重度の睡眠時無呼吸が認められ、また検出された100%が軽度以上の睡眠時無呼吸だった、とのことです。これは陽性的中率が高い、と謳っているのかな?
この説明だけ読むとかなり高い確率で睡眠時無呼吸の人を検出しているように感じますが、これだけでは分かりません。そこでこの臨床試験について調べてみました。
臨床試験の内容を確認してみた
この臨床試験はアメリカ合衆国の7医療機関の他施設共同で行われた試験です。1,499名の参加者は平均年齢: 46歳、性別: 男性56.5%、平均BMI: 32、無呼吸低呼吸指数 (Apnea Hypopnea Index:AHI) が正常 (AHI 5未満) 559名、軽度 (AHI 5以上15未満) 362名、中等度 (AHI 15以上30未満) 216名、重度 (AHI 30以上) 201名です。合計すると1,338名なので161名は途中辞退とかでしょうか。
平均BMIが32とのことですが、これは身長160㎝で体重81.9kg、170cmで92.5kg、180cmで103.7kg、さすがアメリカといったところですね。
検証結果ですが感度についてはAHIが重度の集団で89.1% (164/184)、中等度の集団で43.4% (89/205)、加重平均感度は66.3%でした。
特異度についてはAHIが軽度の集団で91.0% (315/346)、正常の集団で100.0% (543/543)、加重平均特異度は98.5%でした。
感度というのは疾患を有するものが正しく陽性と判定される割合を言います。
一方、特異度というのは疾患を有さないものが正しく陰性と判定される割合を言います。
上の数字で計算すると感度は65.0%で特異度は99.6%となり、Appleの説明とズレが生じます。実際は睡眠時無呼吸の症度によって加重して計算されているので、このズレが生じています。
ここから分かることは、
- 睡眠時無呼吸が中等度以上の場合、66.3%が「睡眠時無呼吸の可能性あり」と判定される
- 睡眠時無呼吸が中等度以上の場合でも33.7%が「睡眠時無呼吸の可能性なし」と判定される (偽陰性)
- 睡眠時無呼吸が軽度および正常の場合、98.5%が「睡眠時無呼吸の可能性なし」と判定される
- 睡眠時無呼吸が軽度および正常の場合、1.5%が「睡眠時無呼吸の可能性あり」と判定される (偽陽性)
ということです。
本当は睡眠時無呼吸なのに33.7%も「可能性なし」とすり抜けてしまうスクリーニング、ちょっとザルじゃないの?と感じてしまいます。
しかし陽性的中率という視点で見てみるとどうでしょう。陽性的中率というのは陽性と判定された集団の中で実際に疾患を有する者の割合を言います。
こちらを計算するとApple Watch の睡眠時無呼吸の陽性的中率は89%で、Appleが謳う「このアルゴリズムで検出された89%の人に中等~重度の睡眠時無呼吸が認められ」の部分になります。
そしてこの割合は症状が重い (または正常) ほど睡眠時無呼吸の可能性あり (または可能性なし)、と判定される結果が示されています。これはなかなか優秀な検出能力ではないでしょか。
日本人の有病率に当てはめてみると
無作為に10万人の日本人にApple Watch を装着してもらって、睡眠時無呼吸の可能性を調べると何となくこんな結果になるのかな?
ちなみに日本人で睡眠時無呼吸症候群を有する人の割合は約4% (10万人中4,000人) です。
陽性判定の合計4,092人ですから割合的には正しそうですが、偽陽性が1,440人含まれ、実際に睡眠時無呼吸の人1,348人は陰性と判定されていることになります。陽性的中率は64.8%なので3人に1人は偽陽性となります。
例えば感度を上げてみる
できるだけ偽陰性を見逃したくない、有病者は陽性と判定したい。
そう考えたくなりますよね。
では感度を上げてみたらどうでしょう?ということで感度を99.9%まで高めてみました。しかし基本的には感度を上げれば特異度は下がるので60%に設定します。
これはあくまで仮定の設定ですからね。
偽陰性はたったの4人にまで減りました。これで有病者のほとんどは陽性と判定されるようになりました。しかし偽陽性者が38,400人で陽性判定者は42,396人とかなり増えてしまいました。
これだと有病者は4%しかいないはずなのに半分近い人を陽性と判定してしまい、あまり意味のない検査と言えます。
例えば特異度を上げてみる
では反対に特異度を99.9%に上げて、感度を60%に下げてみましょう。Apple Watch に比較的近い条件ですね。
無駄に不安を煽られる偽陽性者は96人とかなり減りました。しかし偽陰性者は増えてしまいました。それでも陽性的中率、陰性的中率とも高い値となっています。有病率4%と低い疾患に関しては特異度の高い検査が有益そうです。
Apple Watch の睡眠時無呼吸チェックはなかなか良い?
このように感度、特異度を調べて理解すると結果の受け止め方も違ってきますね。以上のことからApple Watch の睡眠時無呼吸チェックは割と使えるモノではないでしょうか。
これで睡眠時無呼吸の可能性が高いと判定されたならば一度耳鼻咽喉科を受診してみると良いと思います。
それでは皆さん、Have a nice day !